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レポート:FAB12@深セン(Aug, 2016)

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 2016年8月8日から15日までの1週間、中国は深センで開催されたFAB12に参加してきました。
 このイベントは世界中のファブラボ関係者が、毎年1度、世界のどこかの都市で集まるというもので、FAB12の12というのは開催回数を示している。つまり今年は12回目ということだ。
 僕達は1週間の滞在だったけれど、会期自体はもう少し長くて、8月17日までに設定されていた。この間、シンポジウムやワークショップ、フィールドトリップなどたくさんのスケジュールが詰め込まれている。
  ここではFAB12について、いくつかの観点からまとめておきたい。

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 まずは、もっとも大きなテーマから。
 FAB12の大きなテーマは「FabLab2.0」だった。
 FabLab2.0が何かということは、具体的にはまだ誰も知らない。
 誰も知らないものがテーマとは、どういうことだ?と思われるかもしれないが、ニール・ガーシェンフェルドによって「FabLab1.0の終わりとFabLab2.0の始まり」が宣言されて、FAB12は幕を開けた。
 FabLab2.0の始点をあれこれ考えよう、というのがFAB12だったということもできる。
 もちろん、FabLab2.0について手がかりが全然ないというわけではない。
 FabLab1.0は、買ってきた機材でFabLabを構成するようなフェーズだった。
 FabLab2.0は、FabLabがFabLabを作るという自己増殖の概念を持っている。もともとFabLabが「ほぼなんでも作る」という言葉を掲げていた以上、「FabLab自体を作る」というのは当然のことといえば当然のことだ。
 実際に3日間掛けてデジタル工作機器を作ってしまうワークショップも開催された。
 会期中のシンポジウムでは、この自己増殖の概念を受けて、議題が「Businesses that make businesses」「Organizations that makes organizations」「Civilizations that makes civilizations」ともなっていた。
 議論や発表の内容が、見出しに則していたかどうかは良くわからないが、それはまだFabLab2.0というものが手探りであるから仕方がない。
 ただ、これらの自己増殖性は方向としてすべて外部への意思を指し示す。
 自己増殖の特徴は外部に依存せずに増加可能だという自由と、個数の増加が指数関数的に起こるということだろう。自由闊達なFabLabという設備が、社会との接点を増やして貢献したり影響を及ぼしたりするというビジョンが見て取れる。
 何かを作るというフェーズから、作ったものを社会に送り出す、あるいは社会の一部として機能するというフェーズへ。

 「社会」という観点から、特に今回FAB12で印象的だったのは、Global Humanitarian Labの存在だ。
 Global Humanitarian Labは難民などに対する人道的支援を行っているが、これまでの支援組織と異なっているのは活動の三本柱がインキュベーター、FabLab、アクセラレータであることだ。FabLab、あるいはハッカソンなどで革新的な支援機器や方法を生み出している。たとえば、3Dプリントで作る聴診器などをオープンソースにして公開している。
 彼らのFAB12での露出率はとても高かった。
 ダンボールで作るトイレのコンテストもFAB12中に開いていた。
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 2011年のFAB7ではじまったFabCity構想が進展していることもFAB12中に示された。シンポジウムの「Civilizations that makes civilization」の中で、ブータン、パリなどを始めとした新しく参加する地域の市長クラスの人からビデオメッセージが流された。これで2014年に最初のFabCityとなったバルセロナを筆頭に合計16の都市(地域)がFab Cityに参加したことになる。
 2054年までに各都市がFabLabを中心とした市民参加型・循環型のエコシステムを構築するという目標を掲げている。FabLabが「実験室」を飛び出して、街全体に影響を及ぼすという代表的な例だといえる。
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 また、Fab Academyの卒業式めいたものも会期中に行われたが、Fab Academyも時差の大きな地域を別けて行ったり、子供対象のプログラムを設けたりと進化するようだ。
 Fab Academyは卒業生も増えて、FabLabの中でのある基準となりつつある。一昔前の分類でいえば、実に学際的で分野横断的なこのカリキュラムは、たとえば「工学部には行きたいけれど、学科は選べない」みたいな子供達の受け皿として、FabLabの枠組みを飛び越えて広がるのではないだろうか。
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 さて、話の方もFabLabの枠の外側に移すことにして、FAB12が開催された都市深センについて書きたい。なぜなら深センは2016年現在「物を作る」という意味合いでは特別な街で、この街がFAB12の会場に選ばれたことは全く持ってしっくりと来る事だからだ。
 深センは、中国広東省にあり、周辺部合わせて人口1800万人という大都市である。イメージとしては中国の海岸線真ん中当たりに位置していて、ちょうど香港と中国本土の界面のような形で存在している。
 ほとんど何もないエリアだったが、1980年に経済特区に指定されてから急激な発展を遂げ、わずか30年程度で高層ビルの立ち並ぶ近代的な大都市に姿を変えた。
 製造業が発展していて、ハードウェアのシリコンバレーという呼び方も聞かれる。
 FAB12会期中に、現地のインキュベーターやアクセラレータの話を聴く機会があったが、深センでは「3日でプロトタイプができて、1週間で量産体制に入れる」「アイデアがあればお金の心配は要らない」という、勢いある発言が多かった。現地で貰った、”Shenzhen Map for Makers(深セン創客地図)”という製造関連の施設が示してある地図を見ると、メイカースペース、インキュベーター、アクセラレータ、金融関連、モールディング、基盤製造などの会社がびっしりと書き込まれていて、特にインキュベーター、アクセラレータだけでも150以上、メイカースペースだけでも100以上がリストアップされている。

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 この地図を元にして、主に3つの地区を見学した。
 1つは華強北路(ファーチャンペー)と呼ばれる地域で、ここにはもちろんメイカースペースなどもあるのだが、何より一帯は世界最大だと言われる電気街になっている。
 日本人の間では、この街は日本屈指の電気街である秋葉原と比較される。「秋葉原の電気部品屋さんが全部入ってしまうくらいの大きなビルが、いくつもある」という情報は本当だった。感じとしては、ヨドバシカメラみたいなビルがあって、入るとLEDならLED、バッテリーならバッテリーを扱う個人商店レベルの小さなブースが無数にならんでいて市場みたいな雰囲気になっている。言葉が分かり、システムが分かって慣れてくれば、きっとここでは何でも手に入るのだろうというのが実感される。
 もちろん、部品だけではなくて完成品も売っている。完成品は正規品も偽物も玉石混交で、山寨(サン・ジャイ)と呼ばれるコピー品がたくさん売られている。山寨は違法コピー製品だし、もちろんネガティブな意味合いで使われていたはずの言葉だが、いつの間にかカウンターカルチャーみたいな感じで「とにかくさっと何でもちょっと工夫を加えて作ってしまう」という点が評価されはじめていたりもして言葉の意味合いが広がっている。
 実際にFAB12の会場でも、何度か積極的な意味合いで山寨という言葉を聞いた。Apple watchにAppleはSIM差込口付けるの忘れたみたいだけど山寨のこのニセApple WatchにはちゃんとSIMが挿せる、みたいなジョークを言う人もいた。
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 もう一つの地域は、高新駅(High Tech Park)周辺も見に行った。たくさんのインキュベーターなどが集まっている地区で金融の中心地という趣がある。ここも高層ビルや大きなオフィスビルがこれでもかと立ち並んでいて、さらに新しいビルがいくつも建造中だった。
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 最後に訪ねたのは、宝安区にある西シャン(シーシャン)と呼ばれる辺りで、ここは街の中心部からは少し離れていて、深セン宝安国際空港の結構近くになる。
 実はこの街へは勘違いで行ったのだが、住宅街の裏側に快適そうで小ぶりなオフィス群を見つけることができた。オフィスはデザインやITと言った、いわゆるオシャレな感じの会社のもので、中庭のような通路を挟んだ両サイドに部屋が並んでいる。
 深セン滞在中に何度か「デザインドリブン」という言葉を聞き、「そうは言われてもなあ、どちらかというと技術ドリブンじゃないか」と思っていたのだが、いかにも今風なオフィス群を見て少し納得がいった。
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 深センでは、街中に溢れている活力と、あとどこへ行っても走る回っている電動の乗り物が印象的だった。電動の乗り物は、自転車にバッテリーとモーターを積んだ程度のものから車サイズのものまで、色々なタイプのものがあって、見たところ大抵は随分と年季が入っていた。自転車みたいに自分で漕ぐものはあまり見かけないし、これら電動の乗り物は歩道車道をお構いなしにあれこれ積み込んで走っていた。
 別にハイテクではないが、規制がなければ街の様子は一変するのだなと思った。
 華強北路は確かに巨大で世界最大の電気街なのかもしれない。だけど膨大な物量はあるけれど、純粋にバラエティを比較すると秋葉原がそれほど劣っているとも思えなかった。もしも様々な規制がもっとゆるければ、日本の街はどんな姿になっていただろうかと想像しながら深センを後にした。

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